マルコ・ルビアナご夫妻/2026.02.02@Longfellows
Special Interview:タスマニアの地で、生命のワインを紡ぐ哲学(2026.02.02)
Special Report:飲食店での対話から紐解く、ステファノ・ルビアナの真価(2026.02.03)
____ピノ・グリについて教えていただけますか?他の区画と比べても少し特殊な場所にありますよね?なぜあのような場所に植えられているのでしょうか?
もちろんです。ピノ・グリは斜面の下の方、川に近い場所に植えられています。そこの土壌は非常に砂質で水はけが良いのですが、それが私たちの目指す「グリ」のスタイルには最適なんです。実は最近、醸造スタイルを変えました。以前は果汁だけを絞り出すタイトでフレッシュなスタイルでしたが、今はスキンコンタクト(果皮浸漬)を取り入れています。これによってワインにより豊かさ(ジェネラスな感じ)が加わり、まるでロゼとシャルドネの中間のような仕上がりになりました。色合いは季節の暖かさによって毎年変わりますが、私たちはピンクがかった色になっても特に気にしていません。それは自然なことですから。
____マルバジアはとても独特なキャラクターですね。どのように造られているのですか?
この品種は、ベネチア周辺の北イタリアのクローンを100%使用しています。父のスティーヴがイタリアのラディコンで働いていたことがあり、そこでアンフォラ(陶器の瓶)を使った発酵方法を学んできました。
アンフォラで発酵させた後、古い樽で約10か月熟成させます。ブドウを非常に完熟した状態で、時には過熟気味に収穫するため、テクスチャーとタンニンがしっかりした、非常に凝縮感のある味わいになります。
____エステート・シャルドネはとてもエレガントですね。土壌や工程に何か秘密があるのでしょうか?
エステート・シャルドネは1997年から毎年造り続けている、非常に一貫性のあるワインです。土壌は白い石灰岩や泥岩、砂利が混ざった粘土質(グラヴェリー・ローミー・クレイ)です。砂利が多く水はけが良いため、ブドウの根は水を求めて深く伸び、それがワインに優れた酸とエレガンスを与えてくれます。私たちは全房プレスを行い、最も質の高い最初の500〜600リットルの果汁だけを使います。野生酵母を使ってフレンチオーク(新樽20%)で樽発酵させ、天然の酸が非常に強いので、マロラクティック発酵を完全に行います。樽で10か月、さらにタンクで2か月間、澱とともに寝かせることで、豊かなコクを引き出しています。
____「プリマベーラ ピノ・ノワール」と「エステート ピノ・ノワール」の違いについても説明していただけますか?
プリマベーラは2つの地域のブレンドです。寒くて雨が多く、チェリーのような果実味をもたらすヒューオン・ヴァレーと、骨格(ストラクチャー)を支えるダーウェント・ヴァレーのブドウを合わせています。誰もが楽しめる「甘いチェリー」のような親しみやすいスタイルを目指しており、主に除梗した粒(ホールベリー)の状態で発酵させます。
一方、エステート・ピノは、ダーウェント・ヴァレーにある家族所有の最高区画のブドウのみを使用しています
。凝縮感を出すために、収穫量を1ヘクタールあたり5トンまで抑えています。全房発酵(茎ごと発酵)を30〜50%取り入れることで、アルコール度数を抑えつつ、複雑さと軽やかさを両立させています。長期熟成を想定し、コルクとワックス(封蝋)で仕上げているのも特徴です。
____「ビオディナミ」を実践されているとのことですが、タスマニアのような冷涼な気候では管理が大変ではないですか?
スペインやイタリアのような乾燥した場所に比べると、間違いなく大変ですね。寒くて湿気が多いと、うどんこ病などのカビが発生しやすいからです。私たちは、冬の間は羊を畑に放して雑草を食べさせ、天然の肥料にしています。私たちの岩がちな土壌は窒素が少ないので、牛糞や列の間に植えた豆類も活用しています
。害虫に対しては、殺虫剤を撒く代わりに、悪い虫を食べる「益虫」を購入して放しています。堆肥には、ラベル(マルコ・ルビアナのワイン)に描かれているような特定のビオディナミ・ハーブや動物の器官を使い、自然の要素をバランスさせています。
____マルコさん、あなたのスタイルはお父さんのスティーヴさんとどう違うのですか?
私は2018年から自分のワインを造り始めました。父はすべてが完璧に調和していることを重視し、アルコール度数が13.5〜14%になるくらいまでブドウを熟させることが多いです。私はもう少し早め、13%程度で収穫するのを好み、より「ナチュラル」なアプローチに寄っています。亜硫酸塩(SO2)や樽の使用も極力抑えています。少しくらいタンニンが強くても、その年の個性が自然に出ればいい、「何が起きてもそれを受け入れる」という姿勢でボトリングしています。
____最後に、これらのワインにはどのような料理を合わせるのが好きですか?
私たちは自分たちで野菜を育て、海へ行ってクレイフィッシュ(オーストラリアンロブスター)やアワビを獲るような生活をしています。そんな中で発見したのは、マグロの刺身には、ピノ・ノワールよりもスパークリングやリースリングが最高に合うということです。ピノ・ノワールだと刺身には少し強すぎると感じました。私たちのスパークリングはレモンのようなミネラル感があるので、完璧にマッチします
。ピノ・グリはオーガニックチキンやサラダにぴったりですよ。仕事が終わると、帰りの車の中では仕事の話をしますが、家に着いたら美味しい料理とワインを楽しんで、仕事の話はしないように心がけています。
ロングフェロウズでインタビューの次の日(2026年2月3日)、都内の飲食店にてステファノ氏を囲む機会がありました。
グラスを片手に語られたのは、前回の哲学的な話から一歩踏み込んだ、極めて戦略的で緻密な「造り手としての数字と技術」でした。
タスマニアという土地が持つ真のポテンシャルを、4つの視点からレポートします。
オーストラリアという広大なワイン大国において、タスマニア州は「1%の奇跡」と称される、極めて特殊かつプレミアムな地位を確立しています。
1)希少性が生む「高品質・小規模生産」の聖地
大陸側の南オーストラリア州が全土の生産量の約35%を占め、世界の量産市場を支えているのに対し、タスマニアのシェアはわずか1%に過ぎません。しかし、この限定的な生産量こそが、タスマニアを「量より質」を極める小規模生産者の聖地へと押し上げる戦略的要因となっています。
2)世界が注目する「戦略的代替案(Strategic Alternative)」
近年、ブルゴーニュ産シャルドネの価格高騰が世界的な課題となる中、タスマニア産ワインはその有力な戦略的代替案として急速に価値を高めています。
タスマニアのワインは、単なる「品質の良いワイン」という枠を超え、今やグローバルなプレミアム市場において「代替不可能なプレミアム・アセット(資産)」としての地位を不動のものにしています。
ステファノ・ルビアナのワインが持つ強固な骨格は、タスマニアの極限の冷涼環境と、それに応える有機栽培(バイオダイナミック)という戦略的選択の結晶です。
1)冷涼な気候が守る「天然の酸」
タスマニアは、オーストラリア本土が40度を超える熱波に襲われる日でも、日中の気温が17度〜25度までしか上がらない極めて冷涼な土地です。
2)「熟した茎(Ripe Stems)」:有機栽培の技術的優位性
比較的大規模なワイナリーでありながら有機栽培を貫くステファノ氏の姿勢は、明確な品質の差異となって現れます。
化学肥料に頼らないブドウの木は、周囲の環境サイクルに対して非常に鋭敏です。
3)土壌特性と品種の適正配置
ステファノ氏は、丘の斜面ごとに異なる土壌の個性を精緻に見極め、最適な品種を配置しています。
各銘柄の醸造において一貫しているのは、テロワールの純度を極限まで保ちながら、プレミアム市場における圧倒的な優位性を確保するための精緻な設計です。
1)Pinot Gris (2023):自然なリッチさの追求
有機ブドウ特有の厚い果皮を活かし、野生酵母による発酵で複雑味を引き出しています。
2)Chardonnay:ブルゴーニュへの戦略的回答
高騰が続くブルゴーニュの最高級シャルドネに対し、タスマニアから放たれる一石。
3)Pinot Noir:収量管理によるピラミッド構造
ピノ・ノワールは、収穫量を厳格に制限することで、3つの明確なグレードを形成しています。
| グレード | 収穫量・栽培のこだわり | スタイルと特徴 |
| Prime | 6〜7トン/ha | 大樽と小樽を併用した、フレッシュで活発なスタイル。 |
|---|---|---|
| Estate | 5トン/ha(制限) | 高台の粘土質土壌。全房発酵比率を高め、複雑性を追求。 |
| Sasso(Premium) | 3.5トン/ha | 1株あたりわずか500g(5〜6房)という極限の低収量。30列の区画から最良の6列のみを厳選。 |
ステファノ・ルビアナの精密なワイン造りを最終的に完成させるのが、タスマニアで唯一存在する地下セラー(Underground Cave)の存在です。
1)醸造装置としての「静寂」と「熱慣性」
土壌深く掘られたこのセラーは、単なる貯蔵庫ではありません。外部の激しい気温変化を遮断する「熱慣性」を備え、理想的な湿度と一定の低温を年間通じて維持する、極めて重要な醸造装置として機能しています。
2)揺るぎないタスマニアのアイデンティティ
大手メーカーが複数地域のブドウをブレンドし、市販酵母によって効率化を図る手法とは対照的に、ステファノ氏は自社畑のブドウと野生酵母、そしてこの地下セラーでの対話を重視します。
「介入を最小限に抑えるための、高度な施設管理」。 この矛盾するようにも思える徹底したこだわりこそが、ステファノ・ルビアナのワインに、他では決して真似のできない「純粋なタスマニアのアイデンティティ」を刻印しているのです。
